日本の伝統的な染色技法に「友禅染」があります。辞書を引けば、江戸時代の絵師・宮崎友禅斎の名に由来する、防染を用いた染色法とあります。精緻な文様に糸目(輪郭線)を置いて色が混ざらないようにすることで、浸染や絞り染めとも違う、多彩な染物が完成致します。
今回は、京都で作られている京友禅、さらにその中でも型紙を用いた板場京友禅の工程をご説明致します。
図案を描き上げ、型を彫ります。一色につき一枚の型を使用するため、使用する色の数だけ型を要します。
さらに、振袖や訪問着などの絵羽模様(身頃・袖・衽などに模様が切れ目なく描かれ、着物全体で一つの絵となる模様)の着物は上前・胸・袖などの部分ごとに型を彫る必要があります。
作業台となる6~7mほどの木の一枚板に、白生地を糊で貼り付けます。柄を合わせる際にずれが生じるのを防ぐため、真っ直ぐに貼る技術が必要となります。
模様の染色工程を板の上で行うため、型友禅は板場友禅とも呼ばれます。
型を生地の上に置き、色糊を乗せ染色していきます。星と呼ばれる印に合わせて何枚もの型を置くことで、色彩豊かな模様を染め付けることが出来ます。
柄によっては、型置きの作業を数百回繰り返します。
染色の要となる色糊は、各染工場にある色の調合表をもとに、職人の手により作られています。
型で染色を施した箇所へ糊を被せ、乾燥から起こるひび割れを防ぐため、木粉をまぶします。この糊は防染の役割を果たします。
糊伏せまで済むと、生地は板から剥がされ、引き染めの工場へ送られます。
生地がたわまないよう、伸子(しんし)と呼ばれる細い竹の棒で広げ、糊伏せされていない部分に刷毛で地色を染めていきます。
色ごとに刷毛を使い分け、一度に何色ものぼかしを入れることもあります。
引き染めの工程を終えると、生地は蒸しの工場へ送られます。
高温の蒸気を当てることで、型置き・引き染めの工程で染められた色を生地へ定着させます。
色を美しく定着させるためには、その日の気温や湿度に合わせ、蒸気を当てる時間や温度などの調節が必要です。
蒸し終わった生地は水洗いされ、糊や余分な染料を落とします。落とされた染料などが生地へ付着しないよう、多量の水を使用します。
以前は桂川や堀川などの京都市内を流れる川で行われていた作業ですが、現在は工場内で行われています。
染め上げられた生地へ、柄に合わせた金加工や刺繍を施します。
染めムラなども補正し、全体を整えていきます。
絵羽模様の着物は「仮絵羽」と呼ばれる仮仕立てを行い、製品となります。
地張り~完成まで、長いもので三ヶ月の時間を要する場合もあります。
図案の草稿から含めると、さらに長い時間がかけられています。
板場京友禅は、長い時間と数多の職人の手を経て作り上げられている着物です。